2月に上演された『怪人二十面相 暗黒星』から引き続きの生伴奏で彩られる江戸川乱歩名作朗読劇。今回は紀伊國屋サザンシアターで『少年探偵団 化人幻戯』江戸川乱歩名作朗読劇っていくつかあるよね。
前回の『怪人二十面相』においては、土屋さんは少年探偵団のリーダー的存在である”小林芳雄”を演じており、その少年演技が本当に素晴らしくて、今でも彼の声が記憶に居座っている。うれしい。後日、そういった少年の演技をするのは初めてだったという話をされていて驚いた。百戦錬磨なものとばかり。私がうお〜土屋さん好きと本格的に自覚したきっかけであり、思い出深い朗読劇だ。
今回の『少年探偵団 化人幻戯』の配役表では小林芳雄(=怪人二十面相での小林少年)は別の方が演じるらしく、土屋さんは”明智文代 ほか役”と示されていた。今回は小林少年を土屋さんは演じないらしい。少年演技とても好きだったから寂しいな、とか、「文代 ほか」って書きぶりだし、サブでいろいろな役を担当される感じなのかしら、とか。そんなことを思っていた。
あらすじ:太平洋戦争から帰還した小林芳雄は親交深い庄司家に迎えられ養子となり、庄司武彦を名乗っていた。父親の勧めから、元公爵・実業家の大河原義明の秘書となった小林芳雄は大河原の若妻、由美子に惹かれていく。そんな折、大河原氏の周辺で複数の怪死事件が発生。堅固なアリバイや密室に阻まれた不可能犯罪に明智小五郎が挑むのであった。
そんなこんなで幕が上がるわけだが、観劇していてこれほどまでに「やられた!」と感じた朗読劇はなかった。『少年探偵団』なので、少年探偵団が活躍する物語だと思うじゃない。いや原作知らんけども。
配役から何から、『少年探偵団』をやります!という情報だしをしていたのだけれど、実際に下地にしたのは江戸川乱歩のなかでも大人向けな作品の『化人幻戯』というわけだった。『少年探偵団』で活躍していた小林芳雄を大人にして化人幻戯の主人公の立ち位置におき、そこから更に脚色を重ねていった…んだとおもう。作品を知っている人なら、この時点で土屋さんの役回りも察知できたのかもしれない。
サブなのかな?と思っていた土屋さんは蓋を開けてみれば大河原由美子として野郎をこまし淑女もこます大暴れ。由美子の危険な魅力が伝わってくる怪演で、もうめっちゃニコニコしながら見てた。笑えるようなコメディ展開はないのに。大河原由美子の愛に溢れる演技はとにかく素晴らしかった。しかも今回は”小林少年”も再登場。彼の爽やかで真っ直ぐなところが伝わってくる少年演技もまた味わうことができた。あわせて二度美味しい。嬉しい。
お話も”名作”と銘打つだけあり、めちゃめちゃに面白い朗読劇だった。謎が謎を呼ぶ展開から急展開に次ぐ急展開。あたり一面が焼け野原になり大河原由美子は触れるものみな傷つけ、最後には愛について考えることになる素敵な演目だった。愛ゆえに殺されて、その人の中で永遠の存在になるならなんかそれはそれで…アリじゃないか?自分がそんなことを思える存在に出会えない気はするし、由美子は相手がどう思っているかを全く気にしてないわけだけども。
封神演義の妲己ちゃんとか、魅力的な悪役がやりたい放題して勝ち逃げする展開がそこそこ好きなのだけれど、今回の朗読劇もまさにそれ。愛の戦士・由美子は劇物みたいな危うい魅力に溢れていた。
翌日の公演。夏川椎菜さんが小林芳雄を、礒部さんが明智文代ほかを演じるということでリピーターチケットで参加した。やっぱり好きな朗読劇だった。終盤の展開を踏まえて頭から見返すと、細かい前振りが仕込まれていてまた驚き。とりわけ「深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」の引用がゾクゾクする。こちらが由美子をみているとき、由美子もこちらをみているのが一貫していた。こわい。しかし、2回観ても挟まれる時事ネタの意図はよく掴めなかったな。思想はありそうだけど、どんな思想かはわからない。
同じ朗読劇を別日に見に行くことで、やっぱり土屋さんの声と演技が好きだなあという気持ちになる。その理由はなんだろうか。